Cracks of Foam

泡沫のヒビ

アルバム『時の少女』について

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ものごとの例えが上手い人というのは話し上手な人である。人々の関心を大いに集めつつも思慮深く、鋭い切れ味を持って会話を愉しんでいるように思う。

私個人としては脳みそを33回転以上させないことを信条に生きているのだが、その人は会話を競技か何かだと思っているらしく、こちらの回転数を上げようと躍起になっていた。同じ回転数なら手首捻って錬金術でもした方がまだ幾分かマシである。博打は好まないが。

一方、月並みな表現になるが人生とは博打である。身も、心も、金も、未来も、すべて擲って現在という微かな点に全額Betしているのである。早々に擦ってドロップアウトした者をみると、なにやら羨ましい気にもなる。そぞろ。そぞろ神はいる。多分。

『時の少女』は谷山浩子の7枚目のアルバムである。今でこそ再発されて手頃な値段になったが、知った当初の8年前は倍以上の価格であったと記憶している。

時の少女、という響きに明るいイメージを抱く人は多いと思うが、内容は全体的に暗い。特にM1のタイトル曲は非常に重い。M1、M4、M6と、M8のシングルが人気なイメージである。流れで聴いているといつもM7で救われたような気持ちになる。良盤である。

4年前と現在、会えなくなった人がいる。彼らも時の少女に連れられて、黄金の舟で川を下っているのだろうか。かつてダイヤであった石を、私は心の中でそっと握りしめた。