近況
「損をしてでも正しく生きていたいか。」
大事な局面においていつもその質問が投げかけられる。それはよく研がれた刃先のように鋭く、正確に喉元を捉えている。首を縦に振れば致命傷、横に振れば軽傷。どちらを選んでも無傷では済まないが、どちらを選ぶのが幸せなのだろうか。
私はその鋒が向かぬよう冗談を吐き、煙に巻いて生きている。変わった人だとか、思っていたイメージと違うとか、本心が見えない、などと言われる所以はそこにある。仕方のないことである。
しかし、そんな生き方の私をよしとしてくれる酔狂な人達がいて、彼等は何ものにも代え難く、愛おしいものだと感じている。
会社の友人が鬱で退職し、連絡が取れずもう3ヶ月が経つ。彼とは書き尽くせないほどの思い出があり、社会人になってできたほんの一握りしかいない大切な友人の一人である。
何かができた筈だとか、どうするべきだったのかとか、否が応でも考えてしまう。エゴなのも分かっている。驕りだとも思っている。私はまた友人を救えなかったのかと、自分を責めることがある。本人の問題だからと目を背けてしまいそうにもなる。
こうして文字に起こすことは、平穏を望むであろう彼に対する裏切りのような気がしている。
しかし、何かをしないとどうしようもない気持ちに心が潰れてしまう。不安で吐きそうになる時がある。
「損をしてでも正しく生きていたいか。」
似たようなことを尋ねた時、彼は首を縦に振った。真っ直ぐな人間である。とても優しい人間である。そんな純朴な人間を誰がないがしろにできようか。
言葉が宙に浮いている。
そんな近況。