Cracks of Foam

泡沫のヒビ

PARKER VACUMATICについて

f:id:INDIANCAT:20181216011336j:image私が初任給で得たものはVivienne Westwoodのネクタイと親友である。

接客業である以上、なんら特徴のない私は外装から人様の関心を引かねばならないと思い立ち、梅雨も明けきらぬ6月の終わり、初任給を握りしめて名古屋高島屋でネクタイを買ったのであった。ああでもない、こうでもないと1時間以上かけてネクタイを選んだのは後にも先にもこの一回だけであるが、本筋とはあまり関係のない話である。

なんとかネクタイを買った私は昼食もろくに取らずその足でPEN-LAND CAFEへと向かった。学生時代二束三文で買った吸入不良のVACUMATICを修理してもらう為である。

散々道に迷って大汗をかきながら店内に入ると、店のカウンターで店員さんと背の高い男が涼しい顔で談笑していた。場違い感に身を刺されながらもペンを取り出し修理可能か訊ねると、店長判断になるから30分待ってほしいと言われた。一先ずコーヒーを頼み、自前の万年筆を広げて日記を付けていると、先程の男がニコニコしながら近付いて来た。彼は夏だというのにジャケットを羽織り、ハットを被っていた。推定28歳、知性を感じる面立ちである。「色々お待ちのようですが、どういうものをお使いですか?」と聞かれたので「大したものはないですが。」とペンを差し出した。彼はひとしきりペンを触った後「どれもよいものですが面白みには欠けますね。」と言った。今でこそ彼特有の皮肉であり小憎たらしいとも思うが、当時の自分としては雷に撃たれたような衝撃であった。自分とそう変わらないであろう年齢の人が「面白い書き味」というものを理解しているのだと。そこから一気に興味を抱き、話すうちに同じ年齢であることが判明し意気投合、交流が長く続く大切な友人となるわけである。

そんな親友との出会いも表題の万年筆が手元に無ければ得られなかった訳であり、吸入不良だったからこそ得られたものであるから世の中不思議である。

私の所有するこのVACUMATICはいかにもPARKERらしい硬い書き味で、力加減も分かりやすい為これからヴィンテージに手を出そうと考える人にはそれなりにおススメできる一本であると思う。しかし吸入の性質上インク洗浄に時間がかかる点、軸がセルロイドで耐久面が心配である点、キャップリングとクリップが錆びやすい点などは気をつけてやらねばならない。

私はといえば、ヤマハのシルバークロスでリングとクリップを磨く度に親友との出会いを思い出せるので、このVACUMATICとは上手に付き合えているのであろう。