Cracks of Foam

泡沫のヒビ

幻とのつきあい方

4人掛けの椅子が好きだ。隣に座る人と戯れたり、奥にいる人と覗き込むようにして前のめりで話したり、同じ景色を見たり、誰にでもなく言葉を投げかけたり、静かな時間を過ごしたり。そんなありふれた時間が、同じ椅子を共有することで特別な経験にしてくれる…

近況

「損をしてでも正しく生きていたいか。」 大事な局面においていつもその質問が投げかけられる。それはよく研がれた刃先のように鋭く、正確に喉元を捉えている。首を縦に振れば致命傷、横に振れば軽傷。どちらを選んでも無傷では済まないが、どちらを選ぶのが…

アルバム『Burning tree』について

3年ぶりに関西人にコンバージョンしたが、古巣と呼ぶには少しばかり遠い所に居を構えている。 道路脇の水路では鯉が不自由そうに泳ぎ、駅前の寂れた喫煙所では町の人が祈るように煙草に火をつける。街灯の少ない土地ではあるが、照らし出される空気は紛れも…

映画『シベールの日曜日』について

「これだけあれば十分やろ。」 社会人になり住み慣れた家を出て行く際、そう言って父親は財布から7万円を取り出し、投げるように私に寄越した。新大阪から名古屋へと向かう夜の新幹線で、あまりの惨めさに私は1人唇を噛み、涙を流した。 「あんたが居なけれ…

ほぼ日手帳専用カバーについて

何かを買ったと言うと、いの一番に金額を知りたがる人がいる。下賤な輩である。モノの価値は人それぞれであるため金額など二の次でよいではないか。むしろそれがどういったモノで何が気に入ったのかを私は知りたいと思う。会話とはそうあるべきだ、というの…

PARKER VACUMATICについて

私が初任給で得たものはVivienne Westwoodのネクタイと親友である。 接客業である以上、なんら特徴のない私は外装から人様の関心を引かねばならないと思い立ち、梅雨も明けきらぬ6月の終わり、初任給を握りしめて名古屋高島屋でネクタイを買ったのであった。…

アルバム『時の少女』について

ものごとの例えが上手い人というのは話し上手な人である。人々の関心を大いに集めつつも思慮深く、鋭い切れ味を持って会話を愉しんでいるように思う。 私個人としては脳みそを33回転以上させないことを信条に生きているのだが、その人は会話を競技か何かだと…

アルバム『メシ喰うな!』について

西のペヤングは薄いんや…。 帰省するなり兄は流暢な関西弁で不満をこぼした。もう実に5年も前の話であるが、私はペヤングを食べる度にそれを思い出し、味覚とは何であるのかを粛々と考えるのであった。 色々と、もう本当に色々なことがぐるぐると巡り巡って…

METAPHYS locus 43040 Mechanical Pencil について

小さい頃、好きな色は紫色であった。感性に響くものがあったのであろうが何故好きになったのか明確な理由は覚えていない。自分は紫色が好きだと主張すると決まって大人たちは複雑な表情をした。それが嫌でたまらなかった。好きな色をある時から青色に変えた…

アルバム『LOVE FLASH FEVER 』について

父性愛が足りないまま大人になった、というカミングアウトをした晩に飲む珈琲は苦い。言葉の淹れ方が良くなかったのであろう。 親はなくとも子は育つという惨めな言葉にすがりたくもなる。 子供の頃何を聴いて育ったかは個人のパーソナリティを決定する大き…

アルバム『EDO RIVER』について

つい2ヶ月程前まで名古屋にいた。名古屋の片隅、地域名は伏せるが仮にカニエ・ウエストとしておこう。カニエ・ウエストはベッドタウンで何もなかった。娯楽もない、道は一方通行が多く、その上暇さえあれば所構わず道路工事をしていた。居酒屋らしい居酒屋…

アルバム『センチメンタル・シティ・ロマンス』について

シティポップスおじさんという人種がいる。彼らは心の中に山下達郎を飼っており、山下達郎のギター音が主食であり、それ以外は一切受け付けない。そんな冗談を考えてしまう程、シティポップスというジャンルは危険な匂いがする。『センチメンタル・シティ・…

映画『エイリアン』について

『エイリアン』という映画がある。私はこれに滅法弱い。2でも3でも、まして4でもない。vsプレデターなんて以ての外である。薄暗く広い宇宙船、未知の生命体による殺戮、交錯する思惑…etc。これからSF映画を本格的に観ようと考えるなら問答無用でこれを投げつ…

モノと邦楽、時々映画

「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。」という土佐日記の有名な一節から、日記とは元来男のモノである。なとどとぬかせばジェンダー論の教諭は即座に顔面トランザムであろう。別にそんなことはどうでも良い。 自分はほぼ日手帳に2日の…