Cracks of Foam

泡沫のヒビ

ほぼ日手帳専用カバーについて

f:id:INDIANCAT:20190117014827j:image何かを買ったと言うと、いの一番に金額を知りたがる人がいる。下賤な輩である。モノの価値は人それぞれであるため金額など二の次でよいではないか。むしろそれがどういったモノで何が気に入ったのかを私は知りたいと思う。会話とはそうあるべきだ、というのは私個人の理想である。

上記の通り私は会話に求める理想が高いので、満足に会話をできたという実感が最近は殆どない。とてもとても面倒な男なのである。圧倒的な知識量に打ち負かされたい。私の知らない世界を凄まじい熱量で語ってほしい。会話とはそういうものではなかろうか。

本題に移る。

この手帳カバーは二年ほど前にひょんなことから知り合ったIさんという人に作っていただいたモノである。Iさんは趣味で革製品を製作している方である。職種も近く話しやすい人柄であり、革に対する情熱が素晴らしい。製品に対する愛を目一杯私に語ってくれる。妥協はなく誠実で、その心意気が製品の全てに詰まっている。この人が私の父親であればと何度考えたであろうか。私情はとりあえず置いておこう。

エキゾチックレザーという言い方はあまり好きではないが、私はその手の革がとても好きである。特にリザードには目がない。そんな私のIさんに対するリクエストは、ブルーのリザードで手帳以外入らないシンプルな作り、素材で勝負できる美しい革が入荷するまで製作はストップ、作業工程や内容も受け取りまでできるだけ知らせないで欲しい、であった。普通なら嫌がるであろう酷い依頼であるが、Iさんは快く引き受けてくださった。本当にありがたい話である。

製作から完成までに約一年。その間Iさんからの連絡は革の入荷連絡と、完成連絡の二回だけであった。若造の無茶振りにもしっかり応えていただけた事に言葉では言い尽くせない感謝の念を覚えた。そうして実物を手にした時の感動は昨日のことのように思い出せる。傷一つない美しい革を前に誇張ではなく言葉を失った。鱗の細かさから若い個体であることが伺える。深い紺色は光の加減でオニキスのような煌めきを放っていた。バックカットのブルーリザード。腹にあたる部分の中心と手帳の背が寸分の狂いなく配置されており、手帳を開くと左右対称の様式となる。手触りで一級品と分かる床面が均一に手縫いされており、これら一通りの作業時間を考えると気の遠くなる思いであった。細部にまで拘らなければ僕が楽しくないからねと嬉しそうに語るIさんの笑顔が忘れられない。

以来二年間肌身離さず持ち歩いているが、角が少々潰れたぐらいで、あとはいたって丈夫である。作りの良さなのだろう。モノの価値は分かる人だけ分かれば良い。私もIさんも同じ考えであるからこそ、多くを語らずとも期待以上のモノが仕上がるのではないかと考える。

何かを製作して完成した時、その製品と向かい合って酒を飲むのが一番贅沢な時間なのだとIさんは言う。私もそんなIさんに倣って、この手帳を目の前に置き、偶に酒を飲んだりする。まるでIさんと会話をしているかのような、そんな気持ちになるのは何故だろうか。