アルバム『Burning tree』について
3年ぶりに関西人にコンバージョンしたが、古巣と呼ぶには少しばかり遠い所に居を構えている。
道路脇の水路では鯉が不自由そうに泳ぎ、駅前の寂れた喫煙所では町の人が祈るように煙草に火をつける。街灯の少ない土地ではあるが、照らし出される空気は紛れもなく関西のそれである。
思えばキャノンボールよろしく関東へ射出され、偉いさんから是非にと頭を下げられての帰還である為、凱旋もいいところであろう。
しかし、3年も経てば浦島太郎状態である。変わったところは多くあれど、足繁く通っていた文具屋が今では殆どシャッターを締め切りだと聞いた時、酒と云う名の玉手箱を堪らず開けてしまった。二日酔い。様々な後悔はまるで煙のようにまとわりつき、現在の自分はまるで真綿で縊られているかのようである。
少し思い出話。
GRAPEVINEに初めて触れたのは中学の時であっただろうか。発売されたての『ジュブナイル』のPVをCSの音楽チャンネルで目にしたのが一番古い記憶である。
時を経て約10年後、「焦れた日々に僕らは離ればなれ」という『ジュブナイル』の歌詞にまんまとやられてしまった訳である。
思い返せばGRAPEVINEから離れていた時期こそあれど音楽プレイヤーの中には常にその名前はあったし、バンドをやっている友人と関連の話で盛り上がったこともある。
私が勝手に身近に感じているバンドはGRAPEVINE だけなのだろう。
『Burning tree』はGRAPEVINE13枚目のアルバム。発売は2015年、私は就活やらなんやらに追われていた頃である。しっかりこのアルバムを聴いたのは2年程前であるからタイムラグがおそろしい。
そんな私のアルバムについての感想である。大したことなんて言えやしないし、何を話せばいいかもわからない。それに何を言っても所詮は愚かなものの語ること。鵜呑みにしないでいただけると幸いである。
ウォータードラムの音が瑞々しいM1や、『wants』を意識したM4、先行シングルのM5が前半ではとりわけお気に入り。
後半に関しては、流れで聴いても単品で聴いてもどれも素晴らしいが、特筆点はM6の『MAWATA』であろう。新しさ、色気、捻くれた歌詞、これでもかというぐらいにバンドの魅力が詰まっている。一時期はこれしか聴いてなかったほどにハマった。まさにインサニティ。
あと別枠で気になるのはM10。要所要所の歌詞に沢田研二の『サムライ』を感じるのは私だけであろうか。
アルバムとしての聞き応えやバランスの良さは近年のアルバムの中でも随一であると考えている為、周囲に勧める1枚として個人的には推している。欲を言えば先行シングルのカップリング曲『吹曝しのシェヴィ』を入れてほしかった。
あとがき。
この記事を書いたその日、私はツアーファイナルに足を運ぶ。
初GRAPEVINEを拝むにあたり、”私とGRAPEVINE”という箸にも棒にもかからない感想文を期日ギリギリに仕上げた訳である。
本来ツアーの感動等を伝えるべきであろうが、多分生きて帰れない為、感想文兼遺書である。
ぼろぼろに泣く自信はあるが、肝心のハンカチを忘れてしまった。これもまた小さな後悔である。